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物質の歪みと応力の関係を表す構成式を作るためには、構成式が物質客観性を満足する必要がある.つまり、もし歪みが客観性を持つ場合は応力も客観性を持つ必要がある.物質の変形と関係のない、観測者の回転や移動によって応力が発生してしまう矛盾を避けるためである.
弾塑性体などは速度型の構成式で記述されるのが一般的である.つまり弾塑性体は歪速度と応力速度を結びつける式によって表現される.この時歪みとしては、客観性をもつ歪速度テンソルを用いる.よって応力速度も客観性を持たせなければならない.Cauchy応力を直接時間微分したテンソルには客観性がなく、歪速度と関連付けることはできない.Cauchy応力や相対Kirchohoff応力の客観性を持つような速度を取ったものを用いる.このような速度の取り方は
などが挙げられる.以下それぞれについて詳しく説明する.
Cauchy応力テンソルはある共変や反変基底ベクトルによって次のように成分表示される.
基底ベクトルの時間変化を取り除いた応力の速度は次のようになる.
共変基底ベクトルの変化を考えた場合は
反変基底ベクトルの変化を考えた場合は
基底ベクトルを時間変化させるやり方によって、Jauman速度、Oldroyd速度
、Cotter-Rivelin速度
などの時間微分の種類がある.
応力の変化から現時刻の回転の分を差し引いたものをJauman速度という.
共変基底ベクトルの時間変化が物質の回転に従うとして、回転速度テンソルを用いて
としたときの、基底ベクトルの変化分を取り除いた応力の速度を計算する.
Cauchy応力のJauman速度 |
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応力の変化から基準時刻からの剛体回転の分を差し引いたものをGreen-Naghdi速度という.
共変基底ベクトルが基準時刻からの物質の剛体回転
に従うとして、
となる.とおくと、
となる.この時の基底ベクトルの変化分を取り除いた応力の速度を計算する.
Cauchy応力のGreen-Naghdi速度 |
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ここで、次で示されるの反対称性を利用した.
応力の変化から速度勾配による共変基底ベクトルの変化を差し引いた時の、反変成分の変化による速度をOldroyd速度という.
共変基底ベクトルの時間変化が物質とともに変形するとして、
としたときの、基底ベクトルの変化分を取り除いた応力の速度を計算する.
Cauchy応力のOldroyd速度 |
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Jauman速度とOldroyd速度の間には
の関係がある.
応力の変化から速度勾配による共変基底ベクトルの変化を差し引いた時の、共変成分の変化による速度をCotter-Rivelin速度という.
共変基底ベクトルの時間変化が物質とともに変形するとして、
このよき、反変基底ベクトルの変化を求めてみよう.
これらを代入すると、
Cauchy応力のCotter-Rivelin速度 |
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であり、つまり、変形が変化しないときは
である.
は
の時間を基準とした微小領域の体積変化率である.
における基準を計算しているので
である.歪速度テンソルとすると、
が成り立つ.
の時間を基準とした相対kirchhoff応力
は次のように表される.
相対kirchhoff応力 |
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時刻tを基準配置とした第二Piola-Kirchhoff応力の速度をTruesdell応力速度と呼ぶ.
時刻を基準とした相対変形勾配テンソル
を考える
が成り立つ.この時、時刻を基準にした、第二Piola-Kirchhoff応力
は次のように定義される.
であることがわかる.
2個上の式を両辺微分して比較してみよう.
左辺は
右辺は
よって両辺を比較すると次のようになる.
Truesdell応力速度は相対Kirchhoff応力のOldroyd速度と等しいことがわかる.
Truesdell応力速度とJauman速度は次のような関係がある.
相対Kirchhoff応力とCauchy応力の各速度について次が成り立つことがわかる.
相対Kirchohoff応力とCauch応力の各種速度の関係 |
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歪速度テンソルから応力速度テンソルを求める構成式を作る場合を考えよう.歪み速度テンソルには客観性があるので、応力速度テンソルにも客観性がなければならない.客観性がなければ、例えばある物体を違った角度から見ただけで応力が発生してしまうという矛盾を持ってしまう.
物体を異なる角度から見たときにテンソルがどのような変換を受けるのかということを調べるために、ある観測者から見た位置が別の観測者から見ると
の位置にあり、両者の関係が次のように表される場合を考えよう.
これを図で表すと次のようになる.
2人の観測者から見たPの位置の関係 |
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各観測者から見たベクトルを(前,左)のように表す. 画面右を向いている赤い人から見るとPの位置は ![]() ![]() ![]() 画面上を向いている青い人からみるとPの位置は ![]() 青い人の向きは赤い人の向きを反時計回りに90度回転したものである. ![]() 青い人の位置において赤い人の向きから見たPの位置は ![]() 結局赤い人から見たPの位置は ![]() |
さて、このような関係がある場合に相対的な位置を表すベクトルの変換を考えよう.
が成り立つ.よって相対的な位置を表すベクトルが客観性を持つとき
が成り立たなければならないことがわかる.
ベクトルがテンソル
によってベクトル
に変換されるとしよう.
が成り立つ.よって、テンソルに客観性があるとすると、
のような関係が成り立つ.
ここで気をつけたいのは観測者の移動と基底ベクトルの回転は別の物だということだ.基底ベクトルを回転しても成分は変わるがテンソル自体は変わらない.観測者と観測対象の位置関係は相対的なものであるから、観測者の移動や回転は観測対象の移動や回転と同じ意味を持つ
各種テンソルについて客観性があるのかどうか調べてみよう.
Cauchy応力は定義から次のように変換されるので、客観性がある.
変形勾配テンソルについて、
が成り立つ.
を直交テンソル
と正値対称テンソル
に右極分解したものを
、
同じく、を右極分解したものを
とする.
となる.もまた直交テンソルであり、極分解が一意であるから
が成り立つ.
速度勾配テンソル(velocity gradient tensor)は、
ここで、の関係を利用した.
歪み速度テンソル(strain rate tensor)は
変形速度テンソルには客観性があることがわかる.
回転速度テンソル(rotation rate tensor)は
剛体回転速度テンソルは
よって、には客観性がない.よって客観性のある歪速度テンソル
と関連づけて構成式を作ることができないことがわかる.
Jauman速度、Oldroyd速度
、Green-Nargdi速度
、Cotter-Rivelin速度
はそれぞれ客観性をもつ.実際に計算を行うことでこれを確かめてみよう.
であることを用いて
Cauchy応力のJauman速度には客観性があることがわかる.
であることを用いて
Cauchy応力のOldroyd速度には客観性があることがわかる.
であることを用いて
Cauchy応力のCotter-Rivelin速度には客観性があることがわかる.
であることを用いて
Cauchy応力のGreen-Nargdi速度には客観性があることがわかる.
よってには客観性があることがわかる.そこで相対Kirchhoff応力の各種速度について
が成り立ち、はそれぞれ客観性をもつので、相対kirchhoff応力の各種速度
もまた客観性を持つ.
Truesdell応力速度は相対Kirchhoff応力のOldroyd速度
に等しかったので客観性を持つ.
非線形有限要素法のためのテンソル解析の基礎 | 久田俊明 (著) |
非線形有限要素法の基礎と応用 | 久田 俊明, 野口 裕久 (著) |
Nonlinear Finite Elements for Continua and Structures | Ted Belytschko, Wing Kam Liu, Brian Moran(著) |
Computational Inelasticity | J. C. Simo, Thomas J. R. Hughes (著) |